私が社会人になって初めて葬儀に参列したのは、入社二年目の春、大変お世話になっていた取引先の方の訃報に接した時でした。上司に同行して斎場に向かったのですが、私の頭の中は「香典を正しく渡せるだろうか」という不安でいっぱいでした。インターネットで一夜漬けの知識は詰め込んだものの、実践は初めてです。斎場の荘厳な雰囲気に圧倒されながら受付の列に並び、自分の番が近づくにつれて心臓の鼓動が速くなるのを感じました。私はバッグから、母に教えられて用意した紫色の袱紗を取り出しました。ここまでは順調でした。しかし、緊張のあまり、袱紗を開く右手の動きがぎこちなくなり、少し震えてしまいました。なんとか香典袋を取り出し、上司の真似をして相手の方に名前が見えるように向きを変えようとしたのですが、その時です。焦りからか、私は香典袋を時計回りではなく、反時計回りに回してしまったのです。受付の方は何も言わずに受け取ってくださいましたが、隣にいた上司が私の間違いに気づき、後でそっと「弔事の時は、時計回りだよ。相手に敬意を払って、時間をかけて丁寧に、という意味もあるんだ」と教えてくれました。顔から火が出るほど恥ずかしく、自分の未熟さを痛感した瞬間でした。たかが向き、されど向き。その小さな所作一つに、日本の文化が育んできた深い意味と相手への配慮が込められていることを、身をもって学んだのです。この失敗以来、私は弔事の作法について改めて学び直し、どんな場でも落ち着いて行動できるよう、常に心の準備を怠らないようになりました。あの日の恥ずかしさが、私を少しだけ大人にしてくれたのだと、今では思っています。