香典を葬儀の場に持参する際、香典袋をそのままバッグやスーツのポケットに入れるのは、重大なマナー違反とされています。香典袋は必ず「袱紗(ふくさ)」と呼ばれる布に包んで持参するのが、日本の美しい伝統であり、相手への敬意を示すための作法です。袱紗は、単に香典袋を汚さないためのカバーではありません。大切な贈り物を清浄な布で包むという行為そのものに、相手への深い敬意と、中身を大切に思う心が込められているのです。袱紗には様々な色がありますが、弔事(お悔やみごと)に用いるのは、紫、紺、深緑、グレーといった寒色系の色です。中でも紫色は、慶事と弔事の両方に使えるため、一枚持っておくと非常に便利です。慶事用の赤やオレンジといった暖色系の袱紗を弔事で使うことは絶対に避けなければなりません。袱紗の包み方にも、慶事と弔事で明確な違いがあります。弔事の場合は、袱紗をひし形に広げ、中央よりやや右に香典袋を置きます。そして、右→下→上→左の順番で布を折りたたみます。こうすることで、最後に左側の布が上にかぶさる「左前」の形になり、これが弔事の包み方となります。慶事の場合はこの逆で「右前」になるため、間違えないよう注意が必要です。受付で香典を渡す際は、まず左手で袱紗を受け、右手で開きます。香典袋を取り出した後、袱紗は素早くたたみ、その上に香典袋を乗せて相手に差し出すのが最も丁寧な所作です。この一連の流れるような美しい動きは、故人とご遺族への深い敬意を無言のうちに伝え、自身の品格をも示すことに繋がるのです。